RTX 3090(24GB)でQwenはどこまで動くのか — 6モデル実測で見えた世代差と地雷

前回、M1 Max 64GBのMacでローカルLLM 6モデルを比較した。今回はその続編として、Windows + RTX 3090(VRAM 24GB) という「ローカルLLM運用のもう一つの定番構成」で、Qwen系を中心に6モデルを実測した。

結論を先に書くと:

  • 総合ベスト: qwen3.6:35b(MoE)— 約110 tok/sで品質も最上位。ただしVRAMはギリギリ
  • 安定運用: qwen3.6:27b — 19GBで余裕を残しつつ品質は同格。速度は38 tok/s
  • コーディング: qwen3-coder:30b — 実測160 tok/sの爆速
  • 地雷: 旧世代の qwen3:32b — 遅い上に、翻訳で全数値が100倍ずれる事故を起こした

検証環境

項目 スペック
GPU NVIDIA GeForce RTX 3090(VRAM 24GB GDDR6X)
CPU Intel Core i9-9900X(10コア20スレッド)
RAM 64GB
OS Windows 11 Pro
ランタイム Ollama 0.32.6

RTX 3090は2020年発売のGPUだが、VRAM 24GBは現行のRTX 4090と同容量。中古価格がこなれた今、「ローカルLLM入門の最適解」としてまだ現役だ。

セットアップは3コマンドで終わる:

winget install Ollama.Ollama
ollama pull qwen3.6:35b
ollama run qwen3.6:35b

比較した6モデル

Ollamaのデフォルトタグ(いずれもQ4量子化)を使用した。

モデル 世代 構造 ファイルサイズ 実測VRAM使用 GPU収容率
qwen3:8b Qwen3 dense 5.2GB 7.5GB 100%
qwen3:14b Qwen3 dense 9.8GB 12.0GB 100%
qwen3:32b Qwen3 dense 20.6GB 22.6GB 100%
qwen3.6:27b Qwen3.6 dense 15.6GB 19.1GB 100%
qwen3.6:35b Qwen3.6 MoE (A3B) 21.7GB 24.0GB 97%
qwen3-coder:30b Qwen3 MoE (A3B) 18.0GB 19.9GB 100%

計測はOllama APIの生成統計(eval_count / eval_duration)と nvidia-smi、GPU収容率は /api/pssize_vram / size から算出。コンテキスト長は8192で統一し、思考モード(think)はオフにした。

ベンチマーク①:生成速度

3タスク(日本語記事生成・数値保持翻訳・Pythonコーディング)の実測値。

モデル 生成速度 (tok/s) プロンプト処理 (tok/s) コールドロード
qwen3-coder:30b 157〜160 300〜600 17秒
qwen3:8b 116〜122 350〜750 8秒
qwen3.6:35b 106〜112 170〜510 40秒
qwen3:14b 73〜75 310〜450 18秒
qwen3.6:27b 38〜39 170〜340 33秒
qwen3:32b 36〜37 300〜530 19秒

見どころは2つ。

MoEの暴力的な速さ。 総パラメータ35Bの qwen3.6:35b が、8Bのdenseモデル並みの110 tok/sで走る。トークンあたりの活性パラメータが3Bしかないためだ。qwen3-coder:30b に至っては160 tok/s。denseの32Bが36 tok/sであることを考えると、同じVRAM消費で3〜4倍の速度が出ている。

「27Bと32Bはほぼ同速」。 世代が新しい qwen3.6:27b は、旧 qwen3:32b と同じ約38 tok/sだが、後述の通り品質は圧倒的に27Bが上。旧32Bを選ぶ理由はもうない。

なお、記事1本の生成に換算すると、35bで約10秒、27bでも約30秒。M1 Maxで同系統のモデル(q8だが)を使ったときは記事パイプライン一式で10分超だったので、体感はまるで別物だ。

ベンチマーク②:数値保持翻訳 — ここで地獄を見る

ニュース記事パイプラインで一番怖いのは「数値の捏造・誤変換」だ。billionを含む決算文を訳させて、数値が正確に保持されるかを見た。

原文(抜粋):

Nvidia reported Q3 revenue of $57.0 billion ... operating expenses rose 38% to $5.84 billion. The GB300 ramp contributed $10 billion ...

モデル $57.0B $5.84B $10B 判定
qwen3.6:27b 570億ドル ✓ 58億4千万ドル ✓ 100億ドル ✓ ◎ 全問正解
qwen3.6:35b 570億ドル ✓ 58億4,000万ドル ✓ 100億ドル ✓ ◎ 全問正解
qwen3-coder:30b 570億ドル ✓ 58.4億ドル ✓ 100億ドル ✓ ◎ 全問正解
qwen3:14b 570億ドル ✓ 58億4000万ドル ✓ 1000億ドル ✗ △ 1箇所誤変換
qwen3:8b 570億ドル ✓ 584億ドル ✗ 1000億ドル ✗ ✗ 2箇所誤変換
qwen3:32b 57.0億ドル ✗ 5.84億ドル ✗ 10億ドル ✗ ✗ 全滅

qwen3:32b の出力はこうだ:

Nvidiaは、第3四半期の売上収入が57.0億ドルと、前年同期比で62%増加したと発表しました。

billionを機械的に「億」と置き換えて、全数値が100分の1になっている。文章は流暢なので、読んでいて気づきにくいのが最悪だ。8b・14bも「$5.84 billion→584億ドル」「$10 billion→1000億ドル」型の桁ズレを起こした(再実行でも再現)。

一方、Qwen3.6世代は3モデルとも全問正解。billion→億の換算という日本語特有の難所を確実に越えてくる。翻訳を含むパイプラインを組むなら、この一点だけでもQwen3.6世代を選ぶ価値がある。

ベンチマーク③:日本語記事の品質

「ローカルLLMをRTX 3090で動かすメリット」というテーマで800字の記事を書かせた。

  • qwen3.6:27b / 35b: 構成・論理展開・具体性とも頭一つ抜けている。VRAM要件の数値(7B FP16≒14GBなど)を交えた説明ができる。ただし27bの出力に「データ主」と簡体字が混入した。Qwen系の宿命的な癖で、機械的な後処理(正規表現での置換)を入れておくべき
  • qwen3:14b: 体裁は整っているが、「クラウドより推論が2〜3倍速い」のような根拠の怪しい主張が混じる
  • qwen3-coder:30b: 記事は簡素で短め(コーディング特化なので想定内)。ただしコーディングタスクでは、指示への忠実さ・速度とも文句なし
  • qwen3:8b: 骨組みはあるが内容が薄い

VRAM 24GBの攻防 — 35bの「97%問題」

qwen3.6:35b はコンテキスト8192の時点でVRAM使用が24.0GBに達し、モデルの3%がシステムRAMに溢れた(GPU収容率97%)。それでも110 tok/s出るのはMoEの活性パラメータが小さいおかげだが、注意点がある:

  • コンテキストを増やすとKVキャッシュが溢れ、速度が階段状に落ちる。長文コンテキスト運用(RAG、長文要約)なら27bのほうが安全
  • 27bは19.1GBで約5GBの余裕があり、コンテキストを32K程度まで広げてもGPU内に収まる計算
  • デスクトップ環境ではブラウザ等もVRAMを数百MB使う。ギリギリ運用は事故のもと

Macとの根本的な違いはここだ。ユニファイドメモリ64GBのMacはQ8の大型モデルを「遅いが動く」状態で扱えるのに対し、RTX 3090は24GBに収まる限り圧倒的に速く、溢れた瞬間に失速する。量子化はQ4が事実上の標準になる。

用途別の結論

用途 推奨モデル 理由
総合(チャット・執筆・翻訳) qwen3.6:35b 110 tok/s + 最高品質。短〜中コンテキスト向け
長コンテキスト・安定運用 qwen3.6:27b 品質同格でVRAMに5GBの余裕。速度は我慢
コーディング qwen3-coder:30b 160 tok/s。エージェント用途にも
省VRAM・下書き量産 qwen3:8b 7.5GBで120 tok/s。数値を扱う用途は不可
選んではいけない qwen3:32b 27bと同速・同VRAMで品質は大差負け

まとめ

  • RTX 3090は2026年でもローカルLLMの現役機。Qwen3.6世代 + Q4量子化という組み合わせなら、24GBで27B〜35Bクラスが快適に動く
  • MoEはdenseの3〜4倍速い。VRAMが同じなら迷わずMoEを選ぶ
  • モデル選定で世代は正義。旧世代の大型(32B)より新世代の中型(27B)。翻訳の数値事故がそれを証明した
  • Qwen系の簡体字混入は健在。日本語パイプラインには後処理を一枚挟むこと

セットアップからここまで、かかった費用は電気代のみ。モデルのダウンロード合計は約90GBなので、回線とディスクにだけ余裕を持たせておこう。